【連載】ものづくり教授の現場探訪(第3回)

 これまでに4,000を超える工場の現場を訪問してきた中小企業のものづくりのスペシャリストによる連載コラムの第3回です。本連載では、日本の町工場のものづくりの現場探訪を分かりやすく解説します。
 解説は、政策研究大学院大学 名誉教授 橋本 久義 氏です。

©2024 Hisayoshi Hashimoto | All rights reserved.
(本コンテンツの著作権は、橋本 久義 様に帰属いたします。)

会社を成長に導く社長の共通項とは

声がでかい

私は現在までに4130の工場を訪問してきたが、先日、今まで訪問してきた会社のリストを眺めて、お世話になったあの会社、この社長、と思い浮かべていたら、「これはなかなかの会社だ」と思える会社の社長には共通する特徴がいくつかあることを発見した。第一の特徴は 声がでかいことだ。必然的に明るい性格だ。
 社長の考えていることが常時従業員に伝わっているから、従業員全員が社長の方針を知り、その方向に努力する雰囲気が生まれる。「情報公開」なんて話がでる何十年も前から、情報はダダ漏れなのだ。どの取引先とどういう関係になっているか、最近のゴルフのスコア、家庭の事情、前日カラオケで何を歌っていたかまで、従業員、銀行、取引先にバレているのだ。良いところも悪いところもさらけ出して働いているから、従業員をはじめ関係者も温かい眼差しで見つめている。
 いずれにせよ、社長がヒソヒソ話をしていると、別に悪い話でなくても、従業員は気になるし、悪口かも知れないと思うし、猜疑心が芽生えるものだ。
 

情熱

 2つ目は仕事に対する情熱だ。仕事に対する思い入れ、情熱、が他の従業員と比較にならないほど強い。むろん会社を始めた時には「儲けたい」「楽な暮らしをしたい」というような気持ちもあっただろう。しかし仕事に取り組んでいるうちに、そんな話は2の次、3の次になって、「世の中を便利にしたい」「社会に貢献したい」「お客に喜んで貰いたい」と身を粉にして働いている。かってソニーの創業者の井深大さんは、「仕事の成功に対する最大の報酬は、次の新しい仕事だ」と喝破している。
 単に仕事ばかりでない。そういう社長は、何事も一生懸命やる。遊ぶ時も飲む時も、いや休む時ですら一生懸命だ。

タフさ

 3つ目は疲れを知らないタフさだ。年齢にはあまり関係がないみたいだ。私の知っているある環境関係の会社の社長は、81才でまだ現役で、先日もただ一人でフィリピンに行って合弁事業の契約を済ませてきたという。必要があれば、24時間がむしゃらに働き続けるだけの気力・体力を持っている。
 それが従業員にも刺激を与える。
 働くことが薬なのかも知れない。私の経験から言えば、社業から完全に引退してしまうと、6ヶ月くらいで「老ける」。たぶん「仕事」がエネルギー源だったのだ。

前向き

 4つ目は、いつも前向きで、あらゆる状況をチャンスとしてとらえ直す力があることだ。
 ある機械屋さんは、不況で仕事が無い時期を、「日頃ご無沙汰している昔のお得意さんとの関係を再確立するチャンス」ととらえ、昔納めた機械を無料でメンテナンスしてまわったという。職人を遊ばせるよりマシだし、お得意さんのノウハウも吸収できるからというわけだ。(顧客が勝手に付け加えている装置はものすごいヒントという)
 しかし無料で実施する誠実な態度が口コミで広がり、受注は拡大の一方だという。

好奇心

 5つ目の共通点は、好奇心が旺盛だということだ。あらゆることに首を突っ込み、何でも知ろうとする。AI(人工知能)ディープラーニング,VR(バーチャルレアリティー)X(旧ツイッター)、BeーREAL、ゲーム機から、超能力、オペラ、バンジージャンプ、札幌猟奇殺人、新素材、と興味の範囲は留まる事を知らない。そこで得られた知識をヒントにして経営に生かしている。
 自分より知識のある人の話は謙虚に、しかも興味を持って聞くから、聞かれている方は「先生」になって気分がよい。彼は知識を増やしながら相手からも好感を持たれているわけだ。
 特に重要なのは県・市の中小企業交流会、銀行や大企業が主催する勉強会、ロータリーや、ライオンズなどの集まりに顔を出すことだろう。広い人脈形成の源だ。 

度量

 6つ目は、どんな小さなアイデアでも馬鹿にせず発想を広げるだけの度量がある事だ。
 ある社長は、パートの主婦が何気なく出したアイデアを拾い上げ、マンションのベランダ用の坪庭セット(いけす、獅子脅し、灯篭、生け垣などを1メートル四角のFRPの中にセットしたもの)、トラックで運べる茶室、などに展開して好調だ。「世の中には、妙なものでも買ってくれる人がいるんですね」とニコニコ顔だ。失敗作も数多いらしいのだが、とにかく次々アイデアが具体化される。この社長の結論は「何であれ、やってみなくちゃわからない」だそうだ。

 7つ目は、社長が大きな夢を持ち、分かりやすい目標をたてて実行していることである。もちろん従業員もその夢を理解して力を合わせている。
 社長が夢も無く、惰性で仕事をしているような会社では、従業員だって夢も希望も持ちようが無い。若い人も入らないだろう。

素早さ

 8つ目は食べる、喋るのが早い。まだるっこしいのが大嫌いなのだ。何事も素早くやらなくては気が済まない。ある社長さんが言っていたが、就職試験の時に弁当を出して、最初に弁当を食べ終わってきちんと片付けた候補者と、一番声が大きかった候補者は無条件に採用するのだそうだ。
 社長に言わせれば、この選抜法で採用した従業員は外れがないという。

 しかしこのような共通点の中で最大のものは、「他人の持つ能力を正しく評価することが出来て、しかもその能力をフルに活用する力がある」ということであると思うが、それはまた次号。

これまでのコラム

第1回 日本の町工場は人材育成工場
第2回 継ぐ者、継がれる者

筆者紹介 橋本 久義(はしもと ひさよし)

政策研究大学院大学 名誉教授

筆者紹介の詳細は、第1回をご参照ください