第2回 「競争力」は何種類?
前回は、イノベーションとは「(技術や市場などの)『機会』を新しい(製品やサービスやプロセスの)『アイデア』へと転換し、さらにそれらが『広く使われるようにする』過程」であり、その日本語訳は「創新普及」が適切であることをお話ししました。
今回は、こうした考えに基づき、企業の競争力とは何で、イノベーションが競争力にどう効果的なのかについて解説します。
1. 競争力とは
ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、企業の競争力には、「差別化」と「コスト・リーダーシップ」の2種類があると述べています(図1)。
差別化(differentiation)
差別化とは、自社が供給する製品やサービスを、他社とは異なるものにすることで、顧客がその商品に代金を支払いたいという意志を高め、他社よりも高い値段で自社の製品やサービスを販売し、より多くの利益を得ることができるようになる、というものです。
コスト・リーダーシップ(cost leadership)
コスト・リーダーシップは、他社と同様の製品やサービスを供給する際に、そのコストを下げることによって、他社と同じ価格で製品を販売してもより多くの利益を得られるようになる、というものです。
図1:イノベーションは企業の競争優位の源泉
2. 差別化による競争力
それでは、差別化による競争力を得るために、イノベーションはどのように役立つでしょうか? 自動車メーカーを例に差別化による競争力を考えてみましょう。
競合他社との差別化を図るためには、顧客に対してどのような価値を提供するかを明確にする必要があります。これから、新しい製品やサービスを生み出すプロダクト・イノベーションと、新しいビジネスや製造のプロセスを自社に取り入れるビジネス・プロセス・イノベーションを通じた差別化戦略についてご説明します。
① プロダクト・イノベーション ⇒ 差別化
革新的な新製品を開発して差別化を図る例を挙げます。例えば、排気ガスや二酸化炭素を出すガソリンエンジンではなく、バッテリーとモータで動き、空気を汚さない電気自動車、または、車線をはみ出したり前の車と衝突しそうになると、自動でブレーキを掛けたりハンドル操作をして、事故を回避してくれる安全装備搭載の自動運転車を開発・販売することが挙げられます。
顧客がディーラーへ自動車を買いに行き、こうした新しい装備に魅力を感じ、より多くの対価を払っても良いと思うのであれば、メーカーは差別化による競争優位を達成していることになります。
② ビジネス・プロセス・イノベーション ⇒ プロダクト・イノベーション ⇒ 差別化
業務の過程や製造工程をこれまでにはない革新的なものにすることで、そこでしか作れない差別化された製品やサービスを生み出し、それを提供する例があります。
例えば、トヨタはレクサスLCというモデルを製造するために、トヨタの元町工場の中に専用の製造ラインを引き、新しい製造プロセスを導入しました(図2)。
(注)図中の③④は、次回以降のコラムで解説します。
図2:イノベーションと競争力の関係
「LCのアッセンブリーラインでは、技能認定を受けたTAKUMI(=匠)しか作業に当たることは許されていない」とのことです(参考:島下泰久、レクサスLC専用生産ラインで量産とは違う新たな試みを見た、カービュー、2017年5月)https://carview.yahoo.co.jp/article/detail/5e5f51b983fcd5cd6b6b07d03ba438abfe8dca83/?page=2
これは、プロダクト・イノベーションを起こすためにはまずビジネス・プロセスのイノベーションが必要不可欠だったという意味で、ビジネス・プロセス・イノベーションを通じた製品差別化の例ということができるでしょう。
いかがでしたか?
今回は企業の競争力には2種類あること、イノベーションと差別化戦略との関係についてご説明しました。次回は、イノベーションがコスト・リーダーシップに与えるインパクトについて解説します。
お楽しみに!
参考文献
玉田俊平太「日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2020年
これまでのコラム
第1回 イノベーションは「新結合」でも「技術革新」でもありません!
筆者紹介 玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)
関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科長・教授
博士(学術)(東京大学)
筆者紹介の詳細は、第1回をご参照ください。