産業用大型X線CT装置の導入に関する戦略策定に関連した成果普及 (平成30,令和元年度 イノベーション戦略策定事業)

1.イノベーション戦略策定事業の対象テーマ名(実施年度)

産業用大型X線CT装置の導入に関する戦略策定(平成30年度)
委託先:(一社)研究産業・産業技術振興協会

産業用X線CTを活用したデジタルエンジニアリングに関する戦略策定(令和元年度)
委託先:(一財)総合研究奨励会

2.事業実施後の成果普及

 本協会の委託事業での議論を踏まえ、戦略策定委員会メンバーも参加して、令和3年9月に、サイバー・フィジカル・エンジニアリング技術研究組合が設立されました。
 同組合では、経産省の委託事業を受託するとともに、超大型X線CT装置拠点化の検討を行っています。

3.イノベーション戦略策定事業の実施概要

目的

[平成30年度]
 デジタルエンジニアリングが進展する中で、X線CT装置を産業用に用いることで、機械の試作・開発期間の短縮、欠陥検出、事故解析、品質向上などが行われています。我が国でも、小型・中型の装置は既に利用されていますが、海外では、大型のX線CT装置を共用で設置して、自動車や貨物コンテナなどを丸ごと計測する事例が出てきています。
 このため、我が国でも海外を上回る性能の大型X線CT装置を共同設備として導入することを検討しました。

[令和元年度]
 リアルとバーチャルの融合の1つとして、機械工業においては、実物を産業用X線CT装置で3次元スキャニングして得た画像情報をCADなどのデジタル情報と統合するデジタルエンジニアリングが進展しつつあります。
 平成30年度は、大型のX線CTの共同設置の可能性を検討しましたが、この過程で、中小型のX線CTによるデジタルエンジニアリング活用も広がっており、X線CTデータの活用方法を明確にする必要性が明らかになりました。
 このため、令和元年度は、大型から中小型の装置で得られる画像データを用いたデジタルエンジニアリング展開のビジョンを作成し、その実現のための戦略を策定しました。

事業概要

[平成30年度]
 研究産業・産業技術振興協会に設置された戦略策定委員会と3つのWGに、学識経験者、産業界(自動車メーカ、機械メーカなど装置のユーザ企業及び装置メーカ)、国立研究所などが参加して、共同での大型X線CT装置の設置、早期稼働に向けて、用途、技術的要件、運営体制などについて検討しました。その主な成果は次の通りです。

①共用大型X線CT装置の用途
 ユーザとして有力な企業へのヒアリング調査を実施し、用途(ニーズ)としては、欠陥検査、形状計測及びリバースエンジニアリングの3類型があり、これにより研究開発・生産立ち上げの効率化と期間短縮を求めていることが明らかとなりました。ただし、詳細な点では、企業により、大型装置、中型で高精度、ロボット式CT企業へのニーズに分かれました。このうちの大型装置については、1社で設置できるだけの需要を有する企業はなく、共用設備としての潜在ニーズが高いため、本プロジェクトの検討の重点としました。

②共用大型X線CT装置の技術的要件と概念設計
 個々の企業では持てない産業用大型装置の技術要件を検討し、ガントリー型、オフセットスキャン方式で、車1台を丸ごと計測できる大型装置の概念設計を行い、基本性能、開発期間、必要スペースなどを試算しました。

③運営体制など
 初期費用に対しては、公的資金へのニーズが高く、公的研究機関に設置し、併せて研究開発を行う案などを検討しました。運営費用に対しては、使用料収入で運営する方式とユーザ会を組織して会費で運営する方式が考えられますが、使用料の場合、150万円/日が必要との試算に対して、100万円/日程度に抑えられないかとの意見がありました。

④ワークショップの開催
 産業界向けのワークショップを開催し、中間取りまとめの結果を発表したところ、自動車、自動車部品、重機・航空、エンジニアリング、測定機などの54社、111名が参加し、参加者アンケートで、54%から「大型X線CT装置を利用したい」との回答(残りは「分からない」と「未回答」。)を得ました。ワークショップには、独フラウンホーファー研究所からの招待発表も行い、独では、既存の共用大型装置に加えて、ガントリー型の新装置の建設も検討中との情報を得ました。

[令和元年度]
 総合研究奨励会に戦略策定委員会等を設置し、学識経験者、産業界などが参加して検討を進め、その主な成果として、次のことが明らかになりました。

①デジタルエンジニアリングとX線CT活用の現状
 デジタルエンジニアリングの進展は急速で、例えば、自動車の新車開発プロセスでは、モデルベース開発、フロントローディングなどの動きが加速しており、検査部門のX線CTデータも設計情報に統合されつつあります。
 デジタルエンジニアリングの導入は欧米が先行しており、例えば、米国Caresoft社は、X線CTデータを用いてリバースエンジニアリングしたデータを販売しており、今後、コスト分析までサービスを拡大しようとしています。
 Siemens社では、工場設計まで含めて全工程でデジタルエンジニアリングを活用し、他社向けビジネスを展開しています。また、欧州では、デジタルツインの設計情報を用いた自動走行車を安全審査(型式認定)するデジタル認証の動きがあり、国際標準に関しても、欧米主導でモデルベース開発などの標準化が進んでいます。


②デジタルエンジニアリングの将来像
 機械の設計開発では、設計プロセスと実物を試作した後の評価プロセスが必要ですが、モデルベース開発においては、どれだけ多くの情報(X線CTデータなど)を設計プロセスに導入するかが鍵になります。これに用いるモデルも、複雑な製品の挙動の、例えば動力学的な挙動のような一つの側面を抽象化したモデルから、挙動を多様な側面と抽象度でとらえたモデルへと進化し、最終的には新製品開発の作業を全てモデル上で展開するサイバーフィジカルモデルが考えられています。これによりシミュレーションでトライアンドエラーを削減し、実物開発の手法に比べて飛躍的に開発工数を減らすことができます。

③企業経営への影響
 この変化は企業経営にも影響し、近い将来、ⅰ)社内の技術マネジメント、ⅱ)サプライチェーンの企業間取引、ⅲ)安全規制に対する安全性の立証、ⅳ)競合企業の技術やコストの分析にデジタルエンジニアリングやX線CTデータが使われ、単なるデジタルエンジニアリング導入ではなく、それが設計開発部門を超えて多くの部門で利用されるような高度化のレベルが企業競争力になると考えられます。

④推進方策
 我が国として、研究開発、国際標準化、人材育成、大型X線CT装置の導入などを進めることが重要で、そのためにも産業界の経営層の理解が必要になっています。

4.お問い合わせ先

[1] 本事業の報告書の提供をご希望の方は、以下の資料送付申し込みページからお申し込みください。
https://www.mssf.or.jp/contact/#request

[2] 本件に関するお問い合わせは、以下のお問い合わせフォームからお願い申し上げます。
https://www.mssf.or.jp/contact/#inquiry