【連載】しゅんぺいた博士の破壊的イノベーター育成講座(第4回)

第4回 せっかく生み出したイノベーションから利益を得るには?

 前回は、イノベーションを通じてコスト・リーダーシップを獲得するための方法と、イノベーションを起こす速度が企業の競争力に与えるインパクトについて学びました(前回第3回へのリンク)。

1. せっかく起こしたイノベーションから利益を得る方法

 イノベーションの定義は、新しい製品やサービスを生み出し、それが顧客に受け容れられて広く普及すること(=創新普及)でした。たしかに、便利な製品やサービスが手に入るようになれば、消費者の幸福度は増すかもしれませんが、生み出したイノベーションから利益を得る方法を知らなければ、開発や製造に要した資金を回収できず、会社としては困ってしまいます。

 つまり、創新し、普及させても、そこから利益を回収する方法を知らなければ、パーソナルコンピュータの世界標準を創り出して世界中に普及させたIBM社のように、せっかく「創新普及」を成し遂げたにもかかわらず、そこから生まれた価値を自社に十分に還元できなかった先人達と同じ轍を踏んでしまいかねません。

2. 企業秘密で利益回収

 企業のプロダクトやプロセスイノベーションのアイデアを、他社が模倣できないように守るやり方の一つは、誰にもやり方を教えず、企業秘密にするやり方です。こうすれば、他社は容易にマネすることができず、長期にわたってイノベーションによる競争優位を持続させることができるでしょう。

 たとえば、コカ・コーラのレシピ(製法)は、米ジョージア州アトランタの「ワールド オブ コカ・コーラ」内にある特別な施設の中に保管されており、それを知っている人数、そしてそれがどういう役職の人たちなのかも含めて全く明らかにされていないそうです。
http://woman.mynavi.jp/article/130717-034/


写真 コカ・コーラの秘密のレシピが保管されている金庫
【出典】worldofcoca-cola.comより引用

https://www.worldofcoca-cola.com/explore-inside/explore-vault-secret-formula

 他にも、液晶パネルの製造プロセス、電気自動車などのモーターに使われる電磁鋼板の製法などのプロセス・イノベーションに関する技術は、その多くが門外不出の企業秘密で守られているそうです。

 ただし、企業機密の完全で長期にわたる保護はなかなか困難です。なぜなら、他社がライバル社の製品を購入・分解して調べるリバース・エンジニアリングや、専門家のコミュニティでの会話、技術者のライバル企業への移籍などで、秘密が徐々に広まってしまう場合が多いからです。ですから、イノベーションによる競争優位を維持するためには、漏れるより速い速度で新しいイノベーションを起こし続けるしかありません。

3. 特許による保護で利益回収

 自社が生み出したイノベーションから利益を回収するもう一つの手段が、特許による保護を受けることです。きちんと権利が確保できれば、特許を出願してから20年間は、独占的にその製品を製造・販売等することができる強力な権利です。特許は、その侵害の立証が困難なプロセス・イノベーションよりも、プロダクト・イノベーションの保護により有効と言われています。

 たとえば、電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルですが、彼の業績は電話の発明そのものよりも彼が書いた特許の明細書が非常に良く書けていたことだとすら言われています。そのため、彼の会社は600回以上の電話に関する訴訟で、ことごとくライバルを退け、後に全米最大の企業となったAT&T発展の礎となりました。

 また、医薬品のように分子構造レベルで権利の保護を受けることができるものは、侵害の立証が容易であるため、一つの特許で非常に強力な保護を受けることが可能と言われています。
ただし、特許は「取ったら終わり」ではありません。特許庁は出願された発明に特許性があるかどうかの判断はしてくれますが、あなたの会社の特許が他社に侵害されていても、取り締まってはくれないからです。

 特許による保護を得るには、必要な国全てで権利を確保し、侵害の疑いがあるときは自社で対処することが必要なのです。


写真:特許権は持っているだけではダメで、他社の侵害は自ら探し、自ら解決しなくてはならない。

参考文献
玉田俊平太、「日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2020年

これまでのコラム

第1回 イノベーションは「新結合」でも「技術革新」でもありません!
第2回 「競争力」は何種類?
第3回 イノベーションを通じたコスト競争力の向上とイノベーションのスピードの重要性

筆者紹介 玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科長・教授
博士(学術)(東京大学)
筆者紹介の詳細は、第1回をご参照ください