【連載】しゅんぺいた博士の破壊的イノベーター育成講座(第6回)

第6回 ベンチャー企業や中小企業が目指すべき破壊的イノベーションとは?

 前回は、生み出したイノベーションの利益を守る方法として、暗黙知とアフターサービスの重要性について学びました(前回第5回へのリンク)。
 今回は、いよいよ、ベンチャー企業や中小企業が目指すべき破壊的イノベーションとはどのようなものかについて学びましょう。

1. 大企業が得意な持続的イノベーション

 イノベーションとは、企業が提供する製品・サービスやビジネスプロセスが新しくなり、それらが普及することでした。そして、多くの場合、イノベーションによって製品やサービスの性能向上が見られます。
 この向上度合いが連続的なものを漸進的イノベーション、非連続的なものを画期的イノベーションと呼びますが、いずれにせよ製品やサービスの性能が以前よりも向上するものは、まとめて持続的イノベーション(sustaining innovation)と呼びます(図1)。


図1:イノベーションのタイプ分け

 例えば、ガソリンエンジンだけを搭載した自動車より燃費が大幅に向上したハイブリッド車や、これまでの白熱電球より省エネ性能が5倍、寿命は10倍近く長いLED電球などが持続的イノベーションに該当します(図2)。



図2:持続的イノベーションの例

 これらのハイブリッド車やLED電球などの新製品を、既存のガソリンエンジン車や白熱電球を使っている顧客に見せると「おっ、良くなったね! 買い替えようかな!?」と言われるでしょう。このように、持続的イノベーションは、多くの人がイノベーションという言葉から連想するものであり、既存製品の性能向上により、既存顧客の買い替えたい欲求を促すものです。

 持続的イノベーションは、企業の最も収益性の高い顧客に向けて、高い利益率で売れることが見込まれるため、既存企業には、その市場で積極的に戦おうとする強い動機(モチベーション)があります。持続的イノベーションの提案書は、確実性の高い売上や利益が見込まれるため、大企業の社内でも賛成が得やすく、投資の意思決定もされやすいでしょう。
 したがって、この持続的イノベーションの競争には皆が参入したがり、企業同士の血で血を洗うレッド・オーシャンになりがちです。こんな血みどろの戦いで勝つのは、たいていは経営資源が十分にある既存の大企業でしょう。

2. ベンチャー企業や中小企業が目指すべき破壊的イノベーション

 経営資源の乏しいベンチャー企業や中小企業の経営者は、このような持続的イノベーションの競争に飛び込んでも、なかなか勝ち目は薄いため、避けるべきでしょう。相場の格言にも「人の行く、裏に道あり、花の山」と言うではありませんか。

 ベンチャー企業や中小企業が目指すべきは、これからお話しする、大企業が自ら道を譲ってくれる破壊的イノベーションです。

 破壊的イノベーションとは、既存大企業の主要顧客には性能が低過ぎて魅力的に映らないものの、新しい顧客、またはそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く安上がりな新製品や新サービスです。
 別の言い方をすれば、破壊的イノベーションから生まれた製品やサービスは、既存企業の製品の主要顧客が重視する性能が低過ぎるため、既存製品の主要顧客に見せても見向きもされず「オモチャ呼ばわりされる」ようなイノベーションです(図1)。

 この破壊的イノベーションの定義は、イノベーションという言葉から私たちが普通にイメージする「性能向上」とは真逆なので、とても直感に反する(counter-intuitive)概念です。しかし、既にお話ししたように、そもそもイノベーションとは新しいものが創り出されて普及することであり、必ずしも性能が向上すること(持続的イノベーション)のみを指しているのではありません。

 そして、大型コンピュータを破壊したミニコンピュータ、そのミニコンピュータを破壊したパソコン、そのパソコンを追い落とそうとしているスマートフォンやタブレット端末、フィルムの巨人コダックを破壊したデジタルカメラ、据え置き型のオーディオを破壊したヘッドホン音楽プレーヤ(ウォークマン)など、歴史ある大企業が破壊された影には、この破壊的イノベーションが起きていたケースが多いのです。

 いかがでしたか? 今回は、破壊的イノベーションと持続的イノベーションの本質について解説しました。次回は、なぜ大企業は破壊的イノベーションが起こせないのかをお話しします。
 お楽しみに!

参考文献
玉田俊平太、「日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2020年

筆者紹介 玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科長・教授
博士(学術)(東京大学)
筆者紹介の詳細は、第1回をご参照ください