1.趣旨
毛織物の世界三大産地の一つが、愛知県、岐阜県にまたがる尾州地域である。
(世界三大ウール産地: イタリア ビエラ、イギリス ハダースフィールド、日本 尾州)
織物の生地作りでは、色を染めるため染料を溶かした水に糸や生地を浸さなければならず、風合いの良い生地に仕上げるには織ったり編んだりした直後の堅い生地を水で洗って整える必要があり良質な水が欠かせない。 木曽三川の豊かな軟水は、日本ならではの生地作りを可能にし、戦後の日本を支えた大きな輸出産業となった。一般に繊維産業の生産工程は複雑で長いが、上記の背景により、尾州地域では個社ごとに各工程で独自の技術を活かして生産を行っており、分業体制が確立している。
一方で、繊維産業の複雑な生産工程と分業体制のために生産性の改善ができていないのが現状である。中小企業の個社の課題として、販売・生産・管理手法のいずれも昔ながらのやり方を変えられていない点が挙げられる。そのための解決方策としては、各社におけるデジタル化の取り組みを進めることが有効であると考えられるが、リソースの制約等から必ずしも各企業の生産、販売、管理のデジタル化は進んでいない状況がある。
こうした課題への対応のため、2023年度には、尾州地域の企業の参加のもと、「尾州・繊維産業DX 推進コミュニティ」が設立され、経済産業省の「地域DX 促進環境整備事業」を活用し、DX 戦略策定の伴走型支援、サイバーセキュリティ対策に関する支援、課題発表会・成果発表会の実施、ITツール導入フォロー、支援先企業へのDX 勉強会の実施などの活動が行われた。
本フォーラムでは、こうした尾州地域のこれまでの取り組みの成果をもとに、地域中小企業におけるデジタル化、DX化の課題への対応方策、地域コミュニティとしての連携の深化、他地域への横展開と連携に向けた課題と今後の展望を議論する。
2.第1回 開催概要
2024年6月27日 14:00-17:00 に第1回 尾州地域における中小企業集積DX化フォーラム(委員長:村上 文洋 株式会社三菱総合研究所 主席研究員)を開催。
第1回フォーラムでは、中小企業におけるデジタル化、DXの進め方などに関する講演会を実施した後、尾州地域の現状と課題および本フォーラムにおいて検討すべき論点について議論。
3.課題・論点と本フォーラムにおける実施事項
(1) 課題・論点
① 【論点1:各社個別の課題】(注)尾州・繊維産業DX推進コミュニティ活動時(2023年度)の課題認識
販売・生産・管理手法のいずれも昔ながらのやり方を変えられていないこと
(i) 販売手法:繊維の質感はデジタルでは伝えることが難しく、商談・販売は対面が主流であるため工程数がかかってしまう。尾州の企業は数万点にもおよぶ糸や生地見本を持つことが強みになっているが、デジタル化が出来ておらず、デザイナーやアパレルとの商談は対面。
(ii) 生産手法:繊維産業の生産工程は複雑で長い。尾州では個社ごとに独自の技術を活かして生産を行っており、分業体制が確立。工程全体での最適化が図られていない。伝票もバラバラ。また、中小規模の事業者が個社ごとにデジタル人材を抱えることは難しく生産管理手法のデジタル化は進んでいない。
(iii) 管理手法:販売、生産手法で昔ながらのやり方が変えられていない。高齢化比率も他産業に比べて高いことからデジタルリテラシーが低い。そのため、管理部門(会計システム、勤怠管理システムなど)も昔ながらのやり方から変えられていない。
② 【論点2:地域企業のコミュニティとしての課題】
コミュニティ活動を行う運営主体がない。中小企業各社では、ボランタリーでのリソースを割くことは難しい。他地域の課題や取り組み事例を共有する機会もない。
生産管理のクラウド化、地域の企業コミュニティでの各社の受発注の伝票もバラバラ。糸、生地、染のバリューチェーン全体での連携ができていない。その実現のためのビジョンがない。
オープンファクトリーの活動である「ひつじサミット」はメディアにも取り上げられ成果が得られているが、更にその先の本業に踏み込んでの地域企業連携やDX化までの地域企業コミュニティとしての展開が期待される。
③ 【論点3:他地域への横展開と連携に向けた課題】
尾州・繊維産業DX推進コミュニティから、他地域へ横展開し、グローバルな競争力構築を目指す具体的なアクションプランの策定、コンセンサスの形成、推進体制の確立が必要。
(2) 実施事項
① 【論点1】に関して、特に、企業個社としてのデジタル化、DX化に係る課題を整理。
先行して取り組みを進めている他地域の事例を共有。
専門家の助言も踏まえ、課題への対応方策について検討。
② 【論点2】に関して、地域コミュニティとしてのデジタル化、DX化に向けた取り組みの方向性、ありたい姿について検討。
これまで検討が進んでいない本業に踏み込んでの地域企業連携やDXへの地域企業コミュニティとしての展開の方向性について、専門家の助言も踏まえ、議論を実施。
③ 【論点3】に関して、尾州・繊維産業DX推進コミュニティから、他地域へ横展開し、グローバルな競争力構築を目指す具体的なアクションプランの策定、推進体制の確立に向けた検討を実施。
4.フォーラム委員
氏名 | 所属 | 役職 |
【委員長】村上 文洋 | (株)三菱総合研究所 | 主席研究員 |
粟生 万琴 | (株)LEO 武蔵野大学客員教授、名古屋大学客員准教授 | 代表取締役社長 |
岩田 真吾 | 三星毛糸(株) | 代表取締役社長 |
大島 清司 | 艶清興業(株) | 代表取締役社長 |
片岡 晃 | デジタル・クロッシング・ラボ | 代表 |
小澤 活人 | (株)ソトー | 取締役、経営管理部長 |
長谷 憲治 | 長谷虎紡績(株)経営企画部 | 次長 |
保立 久幸 | IPAデジタル基盤センター デジタルトランスフォーメーション部 | エキスパート |
宮田 貴史 | 宮田毛織工業(株) | 取締役専務 |
渡邉 大 | 渡六毛織(株) | 代表取締役社長 |
相澤 徹 | (一財)機械システム振興協会 | 専務理事 |
【オブザーバ】 | 中部経済産業局 地域経済部 航空宇宙・次世代産業課 情報政策室 |
【第1回 開催状況】