データセンターフォーラム(2024年度 活動報告書)【サマリー】

 当協会では、2024年6月に「データセンターフォーラム」(委員長:江崎 浩 東京大学 教授)を立ち上げ、データセンターを巡る課題と今後の取組の方向性について、5回にわたり有識者からの講演を行うとともに、参加委員を交えて議論し、2025年3月末に報告書をまとめました。
 以下、報告書のサマリーを紹介いたします。

 報告書(全文)は、こちらからご覧ください。

データセンターフォーラム 委員

氏名所属役職
[委員長]
江崎 浩
東京大学教授
岡本 浩東京電力パワーグリッド株式会社取締役 副社長執行役員
片桐 恭弘産業技術総合研究所 人工知能研究センターセンター長
川島 正久NTT 研究企画部門IOWN推進室IOWN技術ディレクタ
澤村 徹さくらインターネット株式会社執行役員
平井 淳生(一社)電子情報技術産業協会常務理事
古田 敬デジタル・インフラストラクチャー・コンサルティング合同会社(兼)デジタルエッジグループ 共同創業者代表
山井 美和株式会社インターネットイニシアティブ常務執行役員
相澤 徹(一財)機械システム振興協会専務理事
[オブザーバ]経済産業省 商務情報政策局 情報産業課
[オブザーバ]総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 
データ通信課
データセンターフォーラム第4回会場出席の各メンバー

1. 概要

 今や、デジタル技術は、予測できないほどのスピード、内容で発展しており、特に生成AIの出現により我々の社会は新たな産業革命期を迎えていると言えよう。
 その中にあって、データセンターは、デジタル社会を支える基幹施設であると同時に、多量の電力を消費するなどエネルギー政策、カーボンニュートラル政策に大きな影響を与え、更には国の経済安全保障上も極めて重要な機能を果たしている。

 データセンターは、現在、様々な環境変化に直面しているが、特筆すべきはデジタルトランスフォーメーションの進展によるデータ量の急増である。特に、生成AIの普及は計算リソースへの需要を飛躍的に増加させており、これに対応するための新たなデータセンター整備が求められている。

 本フォーラムでは、企業関係者、有識者参加のもと、データセンターを取り巻くグローバルな環境変化と国内の立地問題、AIチップ開発の進展、ベンダー視点からの将来技術動向、カーボンニュートラルへの対応といった課題について議論し、今後のデータセンターの運用と経営に及ぼす影響、データセンターの効率性と環境負荷の減少について、その方策と展望の議論を行った。

2. データセンターを巡る課題

[1] データセンターの電力需要の増大

 生成AIは、2023年以降、技術の急速な進化、高度な機能を有するサービス提供の拡大とともに、グローバル規模での利用が急増している。これに伴い、データセンターの電力需要の大幅な増加が見込まれている。
 電力インフラ、通信インフラ(海底ケーブルを含む)とAIに代表されるデジタル技術、データ活用は密接に関連しながら、データセンターが稼働し、サービスが提供されている。デジタル技術の急速な進展は電力や通信などインフラへのニーズを増大させるが、これら電力や通信のインフラ整備にはデジタル技術の進展スピードと比べ長い時間を要する。データセンターの事業は、このギャップがあることを考慮し、データ処理の需要と電力・通信インフラのバランスを取りながら整備を計画的に進めなければならない。

(注)ペタフロップ/秒日(pfs-day)で計測した計算量は、よく知られているいくつかの結果をトレーニングするために当時要した計算量をOpenAI社が推定したもの。

【図1】 AIの進化による計算量の推移(OpenAI社の予測)
【出典】第7回 デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合(経済産業省、総務省、2024年5月30日)資料4より転載、Preferred Networks資料を基に、経済産業省、総務省事務局が引用

[2] ハイパークラウドと新しい投資家の出現

 近年のビッグテック(旧GAFAM )を中心とするクラウド事業者の台頭により、オンプレミスでのサービスからクラウドサービスの定期購入(サブスクリプション)へとサービスの提供形態が変化するとともに、データセンターは、ハイパースケーラ が建設する巨大なデータセンターへと集約されていった。これら巨大なデータセンターは多額の初期投資を必要とすることから、これまでのSI事業者ではなく、不動産、外資系ファンドなど、ビッグマネーを持つ新たなプレーヤーが参入し、これまでとは桁が違う大規模な投資が行われている。

 生成AIの開発やAIの利活用がこれら海外のハイパースケール型データセンターで行われる傾向が続いていけば、我が国にとって現在拡大しつつあるデジタル赤字のさらなる拡大を招き、国際収支の悪化の他、経済安全保障の観点からみても懸念となりうる。

[3] データセンターのあり方の変化(用途別のデータセンターという新しい考え方)

 データセンターの大規模化の流れがある中で、最近ではデータセンターのあり方に変化が見られる。
これまで、クラウド化の進展により、小規模なデータセンターが大規模なデータセンターへと集約される傾向が見られた。しかし、近年ではプライベートクラウド化やオンプレミス化が進展している。
 また、AI学習、HPC 、ストレージ専用型は大量のデータを計算処理したり蓄積したりすることが求められる一方で、ユーザーとサーバーとの間でリアルタイム性の必要なやり取りの必要性があまりない。このタイプのデータセンターは通信の遅延に影響を受けない(レイテンシ フリー)用途であるため、ユーザーの多い都市圏から離れた地方にも設置の可能性がある。

 このようにデータの活用の手段と大規模計算の手段とをそれぞれに最適な環境で整備していく 「データと計算資源の分離」 が今後は重要となる。

3. グローバルに見たデータセンター事業の動向

 現在、世界においてもクラウドの遠隔利用、収集したビッグデータの解析、AI・人工知能の処理が拡大している。世界のハイパースケールデータセンターの分野で、米国シェアは約半分を占めている。また、アジア・太平洋地域での主なクラウドデータセンターを見ると、サーバールーム面積の比較において日本は、中国に次いで第2位のシェアとなっているが、その差は4倍以上であり、中国がこの地域に占める割合は大きい。

【図2】世界のデータセンターの立地状況

【出典】 第4回 デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合(経済産業省、総務省、2023年3月3日)資料3より転載、(左図)令和4年版情報通信白書を基に総務省作成、(右図)DATA CENTRE PRICING(2020)を基に経済産業省作成

 中国政府は、データセンターに対して、PUEでの規制をかけており、発電所の多い内陸部では比較的緩くし、沿岸部では厳しい基準を適用している。また、同国政府は、2024年7月に「データセンターのグリーン・低炭素化のための特別行動計画」を発表し、新設・既設のデータセンターに関するPUEの目標を、既存目標よりも強化している。PUE規制を通じて、西部のPUE規制が緩い地域でAIの学習、規制が厳しい東部沿岸部の都市ではAIを利用した推論が行われるという棲み分けが進み、「東数 西算」と呼ばれる状況にある。

 中東諸国では、石油や大規模太陽光発電所などの豊富なエネルギー資源、資金力をバックに、世界からAI データセンターを集め、国力を増大させる戦略を描いている。この狙いの下、製油所の増設などのインフラへの投資を行い、これにより大規模AI データセンターの建設意欲の強い米系大手クラウド事業者を招致している。

 欧州委員会は、2023年9月にEnergy Efficiency Directive(エネルギー効率化指令)を改正し、委任法を2024年5月に施行した。EU加盟国に対し、自国内の500kW以上のデータセンター所有者及び運営者を対象に、データセンター毎のエネルギー消費量等の実績について、情報公開の義務化を求めている。

 用途別のデータセンターという新しい考え方について、諸外国では、これまで1つの汎用コロケーションデータセンターにすべての機能を備えるということが一般的であったが、最近では、用途ごとに分けるようになってきており、クラウド上で複数の機能を統合し、ユーザーに提供するようになってきつつある。

 米国eBay の例では、1つのデータセンター敷地内にクラウド用、電力消費の大きい検索用、ストレージ用、ネットワーク用の4つの専用の建物をそれぞれ建設している。ラック当たりの消費電力が異なるため、それぞれに適切な形で冷却方法を構築している。

 ドイツのBMWは、大きなレイテンシが許容されるクリティカルではないデータは、アイスランド及びスウェーデンの電力が安価で環境負荷が少ないデータセンターを活用している。

4. データセンターに係る技術の動向

[1] 光電融合

 AI、クラウドのニーズの高まりに伴い、データセンター需要が伸長する中、消費電力の増大、利用者からの遠方へデータセンターを設置することに伴う通信遅延の増大への対応、サーバーとネットワークのさらなる高速化が課題となっている。

 これに対応する技術として光電融合技術の開発が進みつつあり、日本ではNTTによるIOWN技術の開発がすすめられ、また台湾ではMSTCが開発をすすめている。
 光電融合技術で使用される光ファイバーCo-packaged Optics (CPO) においては、 CPUなどのパッケージ内部で光のコネクタが使われる。これにより小型化、低損失が検討されている。

[2] 生成AI用チップの開発等

 2020年より生成AIが広がり、学習のみならず推論でもGPUの計算需要が急増した。GPUは計算パターンとして大規模スパース演算 が苦手であり、たくさんのGPUが必要で、コストが大変高くなっている。この状況の中、NVIDIAのGPUに代わる半導体を多くのベンダーが出してきており、また、Microsoft, Amazon, Huaweiなども独自の半導体を作り始めている。

5. データセンター開発に係る課題と論点の整理

 本フォーラムでは、データセンター開発に係る課題と論点を以下のとおり整理し、議論を行った。

・新しい投資家の台頭に伴うデータセンターの立地選定の課題
・データセンター、電力、通信各事業者間での投資回収方法の違い
・データセンターの地方立地促進に向けた課題
  (i) 災害時の地元拠点としての活用
  (ii) 地域のコンピューティング拠点としてのデータセンター(地域共生型データセンター)
・データセンターに係る建築法令上の課題
・蓄電池の整備
・既設のデータセンターにおける設備の更新問題

6. 脱炭素問題

 第7次エネルギー基本計画 では、データセンターと半導体産業は、大量の電力を消費し、地球温暖化ガスを増加させることになるが、日本にとって、戦略的な重要産業であり、その発展・拡大に向けた施策を実施していくとしている。DX化により、エネルギー効率(Energy Productivity)を、全産業・工場・施設等において大幅に改善することで、結果的に社会全体の脱炭素化に貢献することになる。 これが、GX(Green Innovation)への処方箋となるという考え方が反映されている。

 GXとDXの両立のためのデータセンターの立地は、脱炭素エネルギーの供給地に配置していくことが今後求められる。

7. 新たな技術によるデータセンターの分散配置

 データセンターの立地場所に着目して、データセンターの形を、①首都圏中心部、②近郊、③郊外、④地方と4つに分けて分散配置を考える。
 (注)ここで、②近郊とは、都心から電車で40分程度の場所を、また、③郊外とは、都心から車で行きやすい50km程度の場所を想定している。

 4つのデータセンターの形を、分かりやすく理解するため流通の場合に例えると、都心ではコンビニに行き、土曜週末はショッピングモールに行く、それが面倒な時はネットショッピングで買い物をするのと同様なものとして捉えられる。それぞれのデータセンターも、都心はデータセンター仮想化、近郊は地域共生型として自社のデータを守り、地方は人が行かなくてもよいデータセンターとして使うといった考え方である。

【図3】 データセンターの形を4つに分けて考える

上段の地図のソース: Google Map
下段の地図のソース: 環境省 令和元年版環境白書 第一章第三節 図1-3-1
【出典】データセンターフォーラム 第5回 川島委員 発表資料より引用

 近郊では、産業団地の空き地の活用や、銀行のオンプレミス用の閉鎖されるデータセンターの活用の事例がある。NTTは、そのような場所をAPN(All-Photonic Network)でクラウドとつないで、クラウド/AI時代の産業拠点としていくことを提唱している。近郊の産業団地をコンピューター以外の産業用の実験設備を人が使う場所とし、一緒に使用するITの設備を置く場所としても使用する。これを地域共生型データセンターと呼んでいる。
 NTTでは、かねてからIOWN APNによって世界一AI開発に適した国を創ることを提唱している。データ、計算資源、AI技術者の3つをAPNで接続していくことで、APNをAI時代の経済成長を支えるインフラとして整備し、産業競争力の強化、脱炭素化の両立を目指したいとしている。


 今回はデータセンターを巡る技術面の課題を中心に議論してきたが、データドリブンとなった世界経済の中でのデータセンターの重要性、そして、それと密接不可分に関係するエネルギーの安全保障からすれば、今後、地政学的な観点から我が国の国家戦略として、データセンターの議論を深めていくことが求められている。

8. お問い合わせ先

(一財)機械システム振興協会
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